ロバスト設計の基本(2)

(前回)

 

前回、基本的な考え方を説明しました。今回はもう少し具体的な内容を解説します。

 


 

■システムに関与する因子

システムの出力 y を数式であらわすとすれば、様々な変数 x1, x2, x3, ... の関数になります。

y = f ( x1, x2, x3, ... )

システム設計の観点からみると、これらの変数は以下のように分類されます(図2-1参照)。

(1)ユーザーが指定・指示するもの(ユーザーの使用条件を含む)

(2)システム外部の環境など、制御不能な要因

(3)システム内部の変動要因

(4)設計によって決められる因子

 

抽象的な話ではなかなか理解しにくいと思いますので、例えば家庭用のプリンタを考えてみましょう。出力は目的の成果物ですから、印刷画像の濃度・色や寸法などになります。また上記(1)~(4)は以下のようなものです。
(1)の例:印刷する画像の種類、印刷枚数、印刷モード、用紙の種類など
(2)の例:製品の設置環境及びその変化、振動・傾きなど

(3)の例:製品を構成する部品の摩耗・異物付着・物性変化、構造の変形など

(4)の例:インクヘッドの構造、紙送り機構、部品の材質や寸法、画像処理方法など

 

前回述べたように、ロバスト設計は「システムの入出力関係が、ノイズに対して安定するような設計条件を探すこと」 です。

上の(1)~(4)の変数のうち、(1)の一部(画像の種類など)はシステムの出力を積極的に変えたいものです。これを実験的に設定する場合、信号因子と呼びます。

これに対し、(1)の残りの部分と(2)、(3)はシステムの入出力関係を乱す要因となっているもの(ノイズ)です。これらの影響が小さいほど、システムの出力は安定します。実験的に設定する場合、それらを誤差因子と呼びます。

一方、(4)は設計者が自由に決めるべきもので、これを因子として管理する場合は、制御因子と呼ばれます。

これらを表2-1にまとめました。

図2-1.システムに影響する因子

 

これらの用語を使って表現すると、ロバスト設計は「信号因子と出力の関係に対する誤差因子の影響を最小化するように、制御因子の水準を決める」ものだということができます(図2-2参照)。

実際には、一つの制御因子だけで図のような関係を見つけるのは困難で、多くの制御因子の効果を同時に見るような実験方法が必要です。そのために直交表を活用します。

表2-1.ロバスト設計で扱う主な因子の種類

信号因子  システムの出力を積極的に変化させる因子で、ユーザーが利用するもの。システムの入力。
誤差因子   システムの入出力関係を変化させる因子で、その影響を抑えたいもの。
制御因子  システムを構成する因子で、設計者が決めるもの。
標示因子  システムの入出力関係を変化させる因子で、その影響を抑える必要がないもの(影響を把握する必要がある)。

図2-2.ロバスト設計の概念 


■ロバスト設計の基本的手順

では、ごく一般的な場合のロバスト設計の進め方を図2-3に沿って説明します。

この記事では基本の解説を行うことが目的なので、詳細内容は省略します。

実際に実施するにあたり、実験ごとに目的、対象、背景などが異なるため、それぞれ綿密な計画が必要となります。

1.システムの評価特性を決める

システムの機能(働き)を考察し、それをどのように計測するかを決めます。評価特性とは信号因子と出力の関係と考えて結構です。

評価特性はシステムの目的そのものと言えます。

 


2.誤差因子を決める

システムが実際に使用される状況を想定し、それに影響を与える誤差因子をリストアップします。

なるべく多くの誤差因子を採用したいのですが、すべての誤差因子を採用することが実際上困難なこともあります。そのような場合、評価特性に与える影響が大きい因子を選びます。

誤差因子は原則的に2水準で構いませんが、実際のバランスを考慮して決定します。水準が現実よりも大きすぎると、実験で起こる現象が特殊なものになってしまう恐れがあるので、注意が必要です。複数の誤差因子を採用する場合にも水準のバランスに注意しなければなりません。

 


3.制御因子を決める

制御因子は改善するアイデアそのもので、設計者の思想が反映したものになります。

多くの因子を取り上げることで、大きな効果が期待できます。

その水準を大きく変えるほど、差異が明確になります。

 


4.実験の割り付けを行う

実験の割り付けとは、各因子の水準の組合せを決めることです。

制御因子はシステムの構成の一部であるため、その割り付けを”内側の割り付け”と言うことがあります。それに対して、誤差因子は”外側”です。

 

まず外側ですが、誤差因子が複数ある場合、以下のような割り付け方法があります。

  1. すべての組合せを設定する:誤差因子間の組合せ効果(交互作用)がある場合に採用されます。実験数が増えるのが欠点です。
  2. 直交表に割り付ける:誤差因子の様々な組み合わせを偏ることなく効率的に取り上げることができます。
  3. 調合する:複数の誤差因子をまとめて一つの誤差因子のように扱い、出力が大きくなる水準と小さくなる水準をそれぞれまとめて2水準にします。
  4. 現実的な独自の組合せを設定する:たとえば実物実験で動作モードや使用条件などを組み合わせてパターン化し、それぞれの条件で評価を行います。

 

次に内側の制御因子は、直交表に割り付けるのが一般的です。推奨されるのはL18などの複合型と呼ばれる直交表です。

 


5.実験を行う

内側と外側の各水準の組合せごとに、信号因子と出力の関係のデータをとります。

 


6.結果を解析し、最適条件を求める

内側の各水準(直交表を使った場合は直交表の各行)ごとに、出力の大きさ(感度)とばらつき(SN比)を計算します。次に直交表の解析、すなわち各制御因子の水準別平均を算出し、その結果から最適条件を求めます。

最適条件は、まずSN比を最も大きくする因子の水準を決め、SN比を犠牲にせず感度だけに寄与する因子を見つけて出力の大きさを調整(チューニング)するという手順で行うのが原則です。これは2段階設計と呼ばれます。

 


7.推定と確認実験を行う

直交表実験の結果から、最適条件で得られる結果(SN比と感度)を推定します。同様に比較条件(現状条件や標準的な条件)の推定も行い、両者の差(利得)を求めます。これが推定利得です。

次に最適条件と比較条件とで実験を行います。このとき外側の因子その他は直交表実験と同じ条件に設定します。

SN比と感度を計算し、再現実験で得られた利得を計算します。

推定と実験結果の利得を比較し、大きな差異がないことを確認します。

もし両者の差が大きい場合は、どこに問題があったかを検討します。

 


8.結論を出す

図2-3.ロバスト設計のフロー

実験全体の結果を考察するとともに、結論と今後の予定をまとめます。

 



■まとめ

以上、ロバスト設計の基本を2回にわたって解説しました。

ロバスト設計は、技術開発、商品開発の大原則の一つとして押さえておきたい考え方です。

もちろん、常に上述のフローのような方法で実施できるわけではありません。形式的なことよりも、ノイズの影響を受けにくいシステムをするために何をすればよいか、開発テーマごとに最適な進め方を検討することが必要です。