ロバスト設計の基本(1)


■はじめに

 

工場の生産設備や電力供給システムなど大規模なものから、家庭用の家電製品など小規模なものまで、世の中で稼働している様々な製品・システムには様々なものがあります。
機械は使っているうちにトラブル(故障)を起こします。故障はクレームとなり、修理や交換などの対応が迫られます。
問題が起こってから対策をとると、多くの時間とコストがかかり、場合によっては次の製品開発など本来業務を停滞させてしまいます。長期的には顧客からの信頼度にも影響します。
そのため、製品に関わるトラブルは発生してから対策をとるのではなく、問題が起こりにくい ”体質” にすることが肝要です。
これを実現するためにどのように対応すればよいのでしょうか。
ここではその方法論の一つであるロバスト設計を解説します。これはタグチメソッドとして知られる品質工学の中心的な分野です。
品質工学は難しいという印象を持っている方も多いかと思いますが、ロバスト設計の概念はそれほど理解しがたいものではありません。初めての方にもなるべくわかりやすく説明していきます。

■製品のトラブル・故障をどのようにとらえるか
製品の様々な不具合にはいろいろなパターンがありますが、いずれも本来あるべき姿から外れた状態だと言えます。

 

ここで考えなければならない二つの問題があります。
A.本来あるべき姿とは何か
B.あるべき姿から外れる原因となるものは何か

 

まず「本来あるべき姿」についてです。
製品全体やその構成要素などで何かの働きを持つ集合は、一つのシステムと考えることができます。システムは入力を与えられて出力を返します(入力は一つとは限らず、ない場合もあります)。出力としては生産物、エネルギー、情報など様々なものがあります。
ユーザーは、入力に対し目標通りの大きさの出力が得られる状態を求めています。そのため、これが本来あるべき姿とみなすことができます。すなわち、入力に対して出力が一定の関係を持つことが必要になります。
なお、0が理想である弊害特性は、上記の意味での出力にはなりません。

 

次に「あるべき姿から外れる原因」を考えます。
システムには、上述のような入出力の関係を変化させる別の因子が働きます。
例えば、以下のようなものです。

・直接的な外力(機械的衝撃や振動、電気的ノイズなど)

・外部環境の変化(温度・湿度・気圧など)
・機械の稼働による影響(通常の使用方法での経年劣化など)
これらが機械を構成する部品や材料の変形・変質・破損などを起こし、最終的にシステムの不具合または故障となります。

いろいろな不具合に対する上述のような原因をまとめてノイズと呼びます。

 

まとめると、下の図1-1のようにシステムの入出力関係を、ノイズが乱すという状況になっていると考えられます。

ノイズは基本的にシステム設計者が制御することができないものです。その影響を受けにくいシステムを設計するという考え方がロバスト設計の基本です。

図1-1.システムの入出力


■製品開発におけるノイズへの対応方法

製品開発では、従来も不具合の未然防止を目指していろいろな対策が取られています。

その中でのロバスト設計がどのような位置付けになっているかを見てみます。

ノイズに対する対応を分類してみると、以下のようになります。

 

(1)無視する

影響が小さい場合にはコストパフォーマンスの観点からあえて対策は取らず、そのままにします。
(2)管理する
製造工程での問題は、工程の見直し(工程管理)、高性能部品の採用(フォールトアボイダンス)、選別など、管理することで解決します。
(3)合わせこむ
動作中の条件変化に合わせて出力を調整するフィードバック制御や、変化を予測して調整するフィードフォワード制御があります。AIを用いた自動運転などもこの範疇に入ります。
(4)強くする
設計段階でトラブルが起こりにくいシステムを実現するという考え方です。この中では、特定の事象を防止する(FTA)、リスクを抽出して予防策を講じる(FMEA)、ノイズの影響を受けにくい体質にする(ロバスト設計)などの方法があります。

 

これらはいずれも重要な考え方であり、互いに対立するものではありません。

その中で、ロバスト設計は、製品開発において最も早い設計段階での対策であり、大きな効果が得られます。逆に言うと、設計でロバスト性をおろそかにすると、その後工程では非常に苦労することになります。 


■ロバスト設計の概要

繰り返しになりますが、

「システムの入出力関係が、ノイズに対して安定するような設計条件を探すこと」

がロバスト設計の基本的な考え方です。

具体的には、ノイズ(実験上は誤差因子と呼ばれるのが通常です)を実験的に設定し、入出力関係の安定性を評価します。これを設計条件を変えながら行い、最も安定する条件を探します。

 

すなわち、入出力関係が図1-2の左から右のような状態に持っていきます。

図1-2.ロバスト性が低い設計と高い設計

 

続く